多くの共産党支持者は、橋下人気と、メディアによる2大政党制を煽るキャンペーンが梅田氏への票を奪った、梅田氏は戦術負けしたと考えているようですが、投票日翌日の朝日新聞紙面に掲載された出口調査によると、どうもそうではないようです。

(クリックで拡大。赤傍線部は当方編集による。)
上に掲載した記事の赤傍線部によると、府知事選において「政策面で候補者を選んだ」人たちの中でも、梅田氏は他の主要2候補者に比べて支持率が10ポイントも低いようです。
「政策で見ている人」は、当然、橋下人気とは無縁でしょうし、メディアの2大政党制キャンペーンとも距離を置いているはずです。しかし、それでも他の主要2候補者に比べて10ポイントも支持率に差があるというのは、これはもう梅田氏の掲げる政策、もっと言えば共産党の政策に対する支持が低いということになります。梅田氏は戦術だけではなく、戦略的にも敗北を喫したというわけです。
今回(もしかしたら今後も続けるかもしれない)は、梅田氏落選の原因を政策面から見てみたいと思います。
まず、今回の府知事選の争点を見ておきましょう。
投票日前日夜に掲載された朝日新聞記事を援用。
http://www.asahi.com/politics/update/0126/OSK200801260056.html
33年ぶりに国政の与野党第1党の対決となった大阪府知事選が27日に投開票される。17日間の選挙戦では、府財政の再建や産業振興など大阪再生が最大の争点になり、最終日の26日も最後まで候補者の舌戦が繰り広げられた。開票は一部を除いて27日午後9時から始まり、深夜には新知事が決まる見通しだ。財政再建が争点であったことを、まず確認しておきます。
選挙戦は事実上、弁護士の梅田章二氏(57)=共産推薦、新社会支持=、タレントで弁護士の橋下徹氏(38)=自民府連推薦、公明府本部支持=、元大阪大大学院教授の熊谷貞俊氏(63)=民主、社民、国民新推薦=の争いとなった。
府は5兆円の府債残高を抱え、昨年末には巨額の「赤字隠し」も発覚。財政再建団体に転落寸前の危機的な財政状況の中、有力3氏の主張もこの点に集中した。
梅田氏は「無駄・不正ゼロの府政を目指す」と訴え、大型開発の見直しや大企業への課税などで財源をつくり、「福祉都市」の再建を掲げた。
橋下氏は出資法人の見直しと府立施設の売却などで150億円の財源を浮かせ、出産・子育て支援などの重点施策にあてていくと公約した。
熊谷氏は全事業の必要性の点検や補助金見直しなどで年間2104億円の歳出削減をはかり、府民所得を1人平均50万円上げると訴えた。
知事選にはこのほか保護司の杉浦清一氏(59)、元中学教諭の高橋正明氏(65)が立候補している。投票は27日午前7時〜午後8時、府内1784カ所の投票所で行われる。告示前日の選挙人名簿登録者数は709万970人。
これに対して梅田氏の政策というと、以下。
http://www.jcp-osaka.jp/2007/12/post_373.html
府民のくらしが、いままさに、ピンチです。財政危機のもとでも財源を確保し、くらしや教育など府民の願いにこたえる7つの緊急施策を実施します。すべて実施しても200億円。大阪府の年間予算3兆円(一般会計)のわずか0・7%で可能です。財源は、大型開発の見直し、同和行政の終結、大企業への応分の課税でまかないます。財源についての具体策は、以下。
@市町村がおこなう独自の国民健康保険料減免を応援する制度をつくり、高すぎる国保料を軽減します。…必要額50億円
「明るい会」のアンケートで、要望の第一は「国民健康保険、介護保険の負担軽減」でした。いまの府の市町村への補助制度は、滞納者の財産差し押さえを督促する冷たい制度です。市町村がおこなう保険料減免に、1/2の助成をおこなう制度に改善します。
A介護保険料・利用料の減免制度をもうけます…必要額20億円
国に国庫負担の引き上げと保険料・利用料の減免制度を求めるとともに、府としても、すでに独自に減免措置をおこなっている市町村を支援しながら、全市町村に広げていきます。
B子どもの医療費を小学校入学まで助成します…必要額25億円
大阪府の乳幼児医療費助成制度は、全国でもきわめて遅れた状況にあります。あまりの負担に治療を差し控えることもあり、子どもの生命や健康が危険にさらされています。当面、府として子どもの医療費を小学校入学前まで通院も助成し、国にも補助制度をつくるよう要求します。実現すれば、多くの市町村で、中学校卒業まで無料化の展望が開けます。
C35人学級を拡充します…必要額45億円
基礎学力と、豊かな情操を育むゆきとどいた教育のために、小学校3年生までと中学校1年の35人学級を早急に実施します。
D府立高校授業料を年間3万円値下げします…必要額30億円
大阪府立高校の授業料は国基準よりも約2万5千円上回り、全国一高額。そのうえ、エアコン代も徴収されています。せめて国基準並みに引き下げ、エアコン代負担もなくします。
E大阪府若年雇用奨励金制度をつくります…20億円
深刻な青年雇用の改善のために、中小企業があらたに大阪の青年を正規雇用で雇い入れた場合の府独自の補助金を新設します。大企業には正規雇用の拡大を府として強力に求めます。
F生活保護世帯への夏冬一時金を回復します。…10億円
2人世帯の場合、夏冬合わせてわずか11600円です。
http://www.jcp-osaka.jp/2007/12/post_375.html
争点や財源について問われた梅田さんは、「格差・貧困の解消、府民の暮らし・営業を守ること。大企業の法人事業税の超過課税を5%から10%に引き上げることで百億円うまれる。全国唯一、大阪だけ残っている同和行政をやめ、同和関係団体への補助金・委託金も全廃する」と説明しました。要するに、福祉重視。そのための財源は大企業への増税と同和関連予算撤廃(+大型事業見直し)で浮いた資金で賄うということです。
しかしながら、選挙翌々日の29日に朝日新聞記事では、以下のような声が掲載されています。
http://mytown.asahi.com/osaka/news.php?k_id=28000000801290003
危機的な府財政の立て直しを求める人も多い。大阪市都島区の会社員の女性(44)は「自分たちが払い続けてきた税金が適正に使われていないのではないか。まずはそこをクリアにしてほしい」。東大阪市の主婦(62)は「福祉はばらまきではだめ。財政破綻(はたん)しないよう職員の人件費にも切り込んで」と注文をつける。今回の府知事選の主要3候補者(梅田・橋下・熊谷)は、全員、何らかの福祉的施策を手持ちの「武器」としていました。このうち、民主党などが推薦していた熊谷氏の公約については、「バラ撒きもいいとこ」とか「府民所得50万円アップってお前馬鹿か」というような批判が多く見られました。私も流石に「府民所得50万円アップ」は非現実的だと思います。もっとも、熊谷氏掲示の数値データを計算すると50万円ではなく5万円にしかならないという一部指摘もあります(追計算していないので私自身は確認していない)が、いずれにせよ、50万だろうが5万だろうが、これが「バラ撒き」と見られるのは仕方ないと思います。熊谷氏は負けるべくして負けたと思います。
この研究記事の対象である梅田氏は、今回の選挙にて、前掲の「7つの緊急施策」を提言しました。いずれも、実現すれば良いに越したことはありませんが、あれもこれも詰め込みすぎている感があります。前掲の熊谷氏すら「バラ撒き」と批判されたのですから、況や梅田氏の「7つの緊急施策」なんて、非現実的な「福祉バラ撒き」以外の何者でもないと見られたのではないでしょうか。
また、駅前やスーパーなど、人の集まる場所では、悪質商法への警戒を訴える警察署や国民生活センターなどによる「世の中、うまい話・出来すぎた話なんてあるわけありません。悪質商法に注意!」というようなポスターや立て看板を見かけると思います(少なくとも私の活動範囲内にはあります)。今回の梅田氏のあれもこれも詰め込みすぎた公約というのは、言っちゃ悪いですけど「うまい話・出来すぎた話」であり、ちょっと胡散臭さすら感じます。
以上2点を含めて考慮すると、私としては、せめて「7つの緊急施策」のうち優先順位の高い2つくらいに絞っておけば、「福祉バラ撒き」にしてはメニューが少ないし、また「出来すぎた話」というのも言い過ぎの感があるので、こういう印象を受けずに済んだものと思います。
まあ、もっとも梅田氏の福祉公約はまだ絞ったほうですよ。昨年の都知事選における吉田万三氏の福祉公約なんて、もうなんでもありという感すら感じるほど、欲張っていましたからね。
ところで、そもそも「福祉バラ撒き」って何が悪いんでしょう。色々と理由はあるでしょうが、「カネがかかる割には効果が一時的で抜本的解決にならない」というのが考えられます。特に、「カネがかかる」、つまり財源の問題というのが福祉問題を考える際に大きなテーマになります。
その点、昨今の経済の不透明化が梅田氏の掲げた「福祉施策への財源」の説得力を奪ったのではないか、という可能性も考えられます。
昨年末から始まった株価の低下を始めとする景気の減速は、投票日直前には連日の株価の急落をもたらしました。普通の感覚ならば、景気は減速していると見るのが自然でしょう。アメリカ政府は緊急利下げなど景気刺激策を打ち出しました。一方の日本ではガソリン税がどーだこーだと政治屋・政局屋(決して「政治家」ではない)が騒ぐだけで金融政策に乗り出す気配が見られません。
そんな中で「企業増税で福祉増進」なんていえば、「おいおい大丈夫かよ」と思うのは当然であり、なんか胡散臭さを感じるのも当然でしょう。
もちろん、実際は企業はここ数年の(庶民にとっては実感のない)好景気で資金を溜めています。一方で家計収入は増えていない。景気拡大は実感できない。家計を通して経済を見る人にしてみれば、「うちが苦しいんだから会社だって余り儲けていないだろう」と考えるのも当然ですし、さらに昨今の株価急落報道と各種原材料高騰によるコスト上昇の報道、それにともなう景気減退見通しを繰り返す「経済評論家」の言説を聞いていれば、やはり「企業増税って、おいおい大丈夫かよ」と思うのは当然であり、なんか胡散臭さを感じるのも当然でしょう。
それ以前に、そもそも、大企業が経済的な面で磐石であり企業増税しても企業活動に何ら影響をもたらさないことが全大阪府民の共通の認識であったとしても、果たして府民は企業増税を訴える梅田氏・共産党を支持するでしょうか?私としては、大幅な企業増税を大阪府が単独で実行した日には、課税逃れのために大阪から別の自治体への本社移転が一層進み、結果として大阪経済がますます衰退するという可能性が十分にあると考えます。その点を考えると、やはり、財源を企業増税で賄うという方式を掲げる限り、いくら好景気下での選挙であっても、爆発的な支持拡大には繋がらないと思います。
問題の根底には国際グローバル化問題と同じものがあると思われます。
そのほかには、これは余り関係ないと言えば関係ないでしょうが、福祉つながりで。
そもそも今の大阪府政の累積赤字の大元といえば、1970年代に福祉を看板にした共産系の黒田府政の積極財政だと言われています。もちろん、その後の歴代府政、自民党系府政がその傷口を広げてきたことは忘れてはならないですが、黒田府政の記憶のある人にとっては、黒田府政と同じく福祉を看板にした梅田氏に拒否反応を起こすことも考えられます。
福祉とは別のポイントとしては、共産系首長は例外なく議会との軋轢を生み、政治が停滞するので、それを避けるという投票行動もあるでしょうな。もっとも、これは梅田氏どうこうの問題ではないし、府議選で共産党を多数派にすればいいんですけどね。
まあ、自民+公明の72議席に対して、共産党府議は10人なので、ハードルは相当高いですけど。ちなみに、民主党府議は24人、社民党府議は1人ですって。「野党共闘」してもこりゃかなわんよ。
こう考えると、今の方式の福祉施策を掲げる限り、いつまで経っても共産党系候補者は勝てないんじゃないかとも思うんですよね。
共産党が福祉の看板を下ろしたら、あとは護憲と歴史修正主義者との思想闘争、創価監視員の役目くらいしか残らないので、党にはこの辺で何らかの対策を考えほしいと思っているんですが、「4年前に比べて1万票増えた」とか、"多数派革命"を目指している割には小さいことで喜んでいるんだから、送ったところで考えないだろうなぁ。