引き続き、上野氏による被害児鑑定について。『光事件弁護資料(差戻控訴審)』(以下「同資料」)のp44-p45より。
鑑定事項は、検察・弁護双方の主張は、それぞれ「甲7号実況見分調書」「甲8号実況見分調書」ならびに「甲10号鑑定書」の鑑定結果、すなわち客観的証拠・検死結果と矛盾しているか、というものです。
本件に関して、検察は以下のように主張しています。
1.被告は、泣き止まない被害児を殺害しようとして、自身の頭上から被害児を畳の上に敷いたカーペットの上に後頭部から仰向けに思い切りたたきつけた。
2.しかし、被害児は一瞬泣き止んだものの死亡せず、すぐにより激しく泣いたため、被告は被害児を仰向けにして、その頚部を両手で締め付けた。
3.にもかかわらず、被害児が死亡しなかっため、被告は被害児をうつぶせにして、幅約6ミリ・厚さ4ミリのアクリル繊維の紐(剣道のこての紐)を頚部に時計回りに2重にまきつけ、頂部の正中部で交差させ、その両端を両手に持ち、左右に力一杯引っ張り続け窒息死させ、その後に紐を蝶々結びにした。
これについて上野氏は、被害児の左後頭部には鶏卵大の頭皮皮下出血があり、これは墜落外傷であると考えるのも矛盾は無いとしながらも、検察主張どおり、被告(身長:170-175cm)の頭上の高さから叩きつけた場合には、幼児であるがゆえに全身に強い衝撃が加わるから、諸臓器の振盪などによって心停止あるいは呼吸停止が生じ、それだけで死の危険が伴う状態になってもおかしくないが、本件では、検察は「すぐにより激しく泣いた」としているので、頭上からのたたきつけというよりも、もっと低い位置から落下したものと考えられるとしました。
両手での扼頚については、それを裏付ける手指による圧迫痕は見当たらないと鑑定しました。
さらに、紐による頚部締め付けについては、頚部にはほぼ水平に一周する2条の皮膚圧迫痕があるが、その表皮剥脱は弱く少なく、内部所見も小さく弱い出血があるのみなので、検察の言う、索状物の両端を力一杯引っ張ったという死体所見にはなっていないとしました。
被告・弁護側主張の検証について。被告・弁護団は本件について以下のように主張しています。
1.床にたたきつけたり、両手で扼頚したことはない。
2.被害児を泣き止ませようと、剣道のこての紐を被害児の頚部に2重に巻き、ゆるく縛り右側頚部で蝶々結びをしたところ、被害児がぐったりして動かなくなったのであって、殺害しようとしたものではない。
これについて上野氏は、たたきつけについては前掲の通りの所見から否定しました。また、死体には顔面の鬱血(頚部を圧迫すると、脳経由で心臓に戻る静脈流が阻害されて顔面に鬱血する)と眼瞼結膜溢血点があり、頚部に索溝と思われる皮膚圧迫痕が存在し、窒息死の所見を有しているとし、特に幼児の場合、紐で強く頚部を締め付けなくても死にいたるだろうし、絞殺時に蝶々結びをするという行為には強い殺意は感じられないとしました。
結論として上野氏は、検察側主張を否定しました。
なお、弁護団はこの鑑定結果を元に主張しているんですから、合致するのは当たり前です。
次回からは、大野教授の鑑定と再現実験について。それが終わったら、判決まで時間があったら、これらの鑑定をもとにした弁護団主張のまとめでもしてみましょうか(←未定ですよ)
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