10月29日づけの
「都合の良いときだけ」において、神奈川県立神田高校が、非正規基準によって入学者選抜を行っていた問題について取り上げました。本件に関しては、どうも「世論」は本問題を推進してきた校長にたいする同意意見が多く見られるようで、朝日新聞投書欄にも校長の判断を擁護する投書が寄せられています。しかし残念ながら、本件の論点・問題点を踏まえていないといわざるを得ません。

ある「評論家」の「ルールを明示せずに落とすのはアンフェアだ」という意見にたいする反論という形式で筆を取り、「試験・面接ではしかるべき格好があるはず」であるとし、そういう場面ではしかるべき格好をせよ、という説教じみた言葉で締めています。
おそらくこの方は、所謂「常識」(お馴染「庶民の感覚」の一種ですかねえ)は明記されていなくても規則として有効である、という主旨で書いているのでしょう。たしかに、手続きや試験、面接ではしかるべき格好があるはずだという意見はその通りであります。しかし、本件の問題点は「常識だから良い」とか「非常識だから駄目」とか、そういうところではなく、組織というものは明文規則や上位機関の命令にしたがって動かなくてはならないにもかかわらず、その明文規則・上位機関の命令には無い独自の規則で許可無く事務を行っていたこと、ただその1点にあります。
今回、もし仮に、教育委員会から自由にやって良いという指導があるのならば、基準は各高校が自主的に制定できる、本件は問題にすらならなかったでしょうが、実際は上位機関たる教育委員会から先に基準が指導されている、つまり、「これでやれ」という指示が来ている。「これでやれ」ということは、逆に言うと「これ以外ではやるな」ということであります。だから規則違反・命令違反として問題になっているのではないでしょうか?ひたすらに組織としてのありかたが問題となっているのです。
こういう、所謂「常識」を盾にした明文規則無視を是認する思考は本件に限らず、刑事裁判に対する「世論」でも良く見られます。たとえば、福岡3児死亡事故のように、検察官の求める「危険運転致死傷罪」は、そもそも刑法では死刑相当事件とは定義されていないにもかかわらず、「死刑死刑」と喚きたて、当然のことながら懲役刑の判決が下ると、裁判官に対して暴言を吐いたり、「日本の司法は腐敗している」とか口にしたり、酷い場合は何故か被告弁護人に対して噛み付くといった類です。
彼らの「常識」においては、あの事故は「死刑相当」なのかもしれません。それも考え方の一つでしょう。また、飲酒運転の刑罰に死刑を加えるか否かについて議論すること自体は結構なことだと思います(私としましては、以前にも書きましたが、余り意味無いと思いますけどね)。しかし、組織、それも公共組織たる裁判所は明文規則(法律)通りに動かなくてはならない。いくら「常識」云々と吼えても、明文規則に無い処置はできないのです。
同様のことは、たとえば死刑廃止運動推進者にもいえます。すなわち、死刑廃止運動を推進する議員や民間人は、死刑執行があるたびに法務大臣宛の抗議声明を出します。しかし、法務大臣は法律という明文規則に従って職務を遂行しているのであって、批判対象としては妥当ではありません。
では、ある明文規則が「常識ハズレ」ではないのかと思ったらどうすれば良いのか。簡単です。その「常識」を明文規則にすべく規則制定機関(刑事事件関係ならば国会、本件ならば神奈川県教育委員会ですかね)に提議すれば良い。先に例としてあげた死刑廃止運動の場合には、抗議声明は法務大臣に対してではなく死刑制度を刑罰として定義している刑法を改訂できる唯一の機関たる国会に対して訴えかけるべきですし、本件にしても、「志願者の外見を判断基準に入れる」ということを正規基準(明文規則)としているのならば、すくなくとも私は本件を問題として取り上げはしなかったでしょう。先にも書きましたが、私も服装を判断基準のひとつにすることは反対しませんから。
個人がどんな「常識」を持っても構いません。しかし、組織は明文規則にしたがって動かなければならない。もし明文規則が変だと思うのならば、規則にしたがって業務を執行するしか道がない当局に対してではなく、明文規則そのものや、あるいは規則制定機関に対して物申すべきではないでしょうか。
ちなみに、「常識」云々言うのならば、あえて同じ土俵で戦うのならば、組織は明文規則どおりに動くことも「常識」であります。手続き・試験・面接においてある一定の服装の型を守るのが「常識」であり、それに反する服装をすることは「常識ハズレ」であり、不合格にされても仕方ないというのならば、明文規則どおりに組織を運営するという「常識」に反する行動をとった神田高校もまた「常識ハズレ」であるといえるのではないのでしょうか?
posted by s19171107 at 22:08|
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