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2008年12月15日

「感情屋」と「自己責任論者」の共通性について

 昨今の新卒者内定取り消し問題と、例によってその「世論」について。

 昨今の新卒者内定取り消し問題には、取り消された学生の側に立つ意見が多いのですが、一方で逆の意見も少なくありません。しかし、それらの「世論」の多くは、なんか根本的にズレているとしか言いようがありません。たとえば、以下。以下は、本件に関する「世論」としてみられる言説のエッセンスが凝縮されているように思います。
>>> 一般企業は、利潤を追求する団体として存在してる。
経済の基本として、当然のこと。

企業倫理、使命や社会貢献、理想や社員の幸福を追い求める企業があるとすれば、それは理想郷というものである。


しかし、一般的にはまず有り得ない。

不可能ではないが、七つ葉のクローバーを探すようなものだ。

マスコミがなんと煽ろうと、勘違いしてはならない。

あくまで、内定は内定。

内定取り消しは、企業にとっては当然の行動。

あくまで、内定。採用したわけでも何でもない。


学生にとって就活が、少しでも自分を良く見せて企業に入り込む活動だとすれば。

企業にとっての採用活動は、外面を取り繕ってでも、こましな学生を誘い込み、都合のいい労働力を確保する目的に基づくものでしかない。

つまり。明らかに。
『だまされるほうが悪い』
就活は元来、そういうものだから。


内定取り消しの可能性を含めて、企業の将来性を判断しなかった学生側のミスだ。

そして、本当に企業にどうしても必要とされてる人間なら、切られたりはしないもの。

何をどう騒ごうが、やはり単にその学生の『能力不足』だろう。


そこを履き違えて、100万円では足りないなんて。
あきれた話だと思う。


内定なんて、その後延々と続く険しい労働のほんの始まり。

トライアスロンの最初の『数ミリ』みたいなものなのだから。
<<<
 このように、採用内定を取り消した企業の側に立って意見する人たちの多くは、「内定はあくまで内定であり決定ではない」「その企業の将来をちゃんとみなかった本人の自己責任」「新聞とか読めば経済の動静くらい分かったはずなのにそれを怠った自己責任」(←これは上記には記述されていませんが、とあるところで見ました)「このご時世でも雇い入れたくなるような能力を持たない本人の能力不足」というような言説を以って擁護しています。

 しかし、私としましては、これらの言説はどれもこれも全く失当なものであると言わざるを得ないと考えます。

 まず「内定はあくまで内定であり決定ではない」と、それに付随して語られることが多い、上記「世論」でいうところの「そこを履き違えて、100万円では足りないなんて。あきれた話だと思う。」をはじめとする新卒者批判言説について。これについては、そもそも「内定」というものは何であるかという点から考える必要がありそうなので、以下、広島県による解説から、まず「内定」の法的位置づけを把握したいと思います。
http://www.work2.pref.hiroshima.jp/docs/1378/C1378.html
>>> 1−1 採用内定が取り消された
 
 私は,来春卒業予定の大学生です。ある企業の採用試験に合格し,秋に内定通知を受け,会社側に入社誓約書を提出しました。ところが,先日,会社から業績の悪化を理由に内定を取り消したいという連絡がありました。時期的にこれから新しい就職先を探すのは困難なのですが,入社はあきらめなければならないのでしょうか。

ポイント

 使用者が採用内定を行い,それに対して学卒予定者等が誓約書を提出すれば,その時点で,使用者の解約権が留保された労働契約が成立したものと解されます。


 採用内定の取消は,取消の理由が内定当時知ることができなかったか,知ることが期待できないような事実であって,社会通念に照らして相当と認められる場合に,可能とされています。

採用内定の法的性格

 採用内定が取り消されると,時期によっては,その年度の就職をあきらめざるを得なくなり,労働者にとっては大きな問題です。したがって,学説・判例は,内定取消から内定者を保護するための理論を築いてきました。
 この点,判例は,内定の法的性格について,「会社からの募集(申込みの誘引)に対し,労働者が応募したのは,労働契約の申込みであり,これに対する会社からの採用内定通知は,申込みに対する承諾であって,労働者の誓約書の提出とあいまって,これにより,労働者と会社との間に,労働者の就労の始期を大学卒業直後とし,それまでの間,誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと認めるのが相当である。」としています(大日本印刷事件・最高裁判決 昭54.7.20)。すなわち,採用内定によって,一定の解約権が留保された労働契約が成立していることになります。
 もっとも,採用内定といっても,その実態は様々ですから,一概にこのようにいえるわけではありません。しかし,新規卒業者の場合についていえば,一般に,このようにいってよいでしょう。

内定取消の適法性

 採用内定により労働契約が成立すると考えられる以上,内定取消は,内定の際に留保された解約権の行使による労働契約の解約ということになります。したがって,結局は,内定取消ができるかどうかは,解約権の行使が適法か違法かの問題になります。
 これに関して,最高裁は,前掲の大日本印刷事件で,「採用内定の取消事由は,採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できないような事実であって,これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」としています。つまり,内定通知書や誓約書に記載された取消事由に該当したとしても,必ずしもそのすべての取消が認められることにはなりません。
 取消が正当と認められる事由としては,通常,次のようなものが考えられます。
@ 学校を卒業できなかった場合。
A 入社の際に必要と定められた免許・資格が取得できなかった場合。
B 健康を著しく害し,勤務ができない場合。
C 履歴書や誓約書などに虚偽の記載があり,その内容や程度が採否判断にとって重大なものである場合。(単に,「提出書類への虚偽記入」というだけでは,取消が認められない場合があります。)
D 採用に差し支えるような破廉恥な犯罪を犯した場合等。
 ところで,ご質問は経営悪化を事由にする内定取消は,有効かというものです。このような内定取消が有効とされるのは,経営悪化が新規採用を不可能ないし困難とするようなものであり,かつ,この経営悪化が内定当時予測できないものであった場合に限られます。
 最近の事例として,ヘッドハンティングによりマネージャー職にスカウトされた労働者に対する経営悪化を理由とする内定取消について,整理解雇の4要件(「人員整理のための解雇は,どこまで許されるか」の項を参照してください。)に照らし,その当否を判断すべきとし,会社の対応に誠実を欠くところがあったとして,採用内定取消を無効としたケースがあります(インフォミックス事件・東京地判平9.10.31)。

こんな対応を!

 以上のように,合理的な理由のない内定取消は,解約権の濫用に当たり無効とされます。このことを念頭に,次のような対応を取りましょう。
@ 内定取消の理由について,具体的な説明がない場合は,文書での回答を求めましょう。具体的な理由が示されている場合は,内定通知書や誓約書に,その事由が記載されているかどうか,確認しましょう。
A 企業に労働契約の履行(入社日からの就労)を求めるとともに,賃金の支払を要求しましょう。なお,採用を繰り延べる場合には,自宅待機の期間を明確に設定するように求めましょう。
B やむを得ず内定取消を受け入れる場合には,補償措置について会社側と交渉しましょう。
C 会社側に誠意がみられない場合には,従業員としての地位保全・賃金仮払いの仮処分申請や損害賠償請求などの法的手段に訴える方法があります。
 

更に詳しく

≪採用内々定≫
 正式な採用内定に先だって,企業が採用を望む学生等に口頭で「採用内々定」であることを伝え,後日正式に書面で「採用内定」を通知するという場合があります。このような「内々定」の段階では,多くの場合,企業と応募者の双方とも,内々定により労働契約の確定的な拘束関係に入ったものと認識していると認めることは困難です。労働契約締結の申込みに対する承諾の意思表示である採用内定とは異なり,労働契約は,採用内々定の段階ではまだ成立していないと解さざるを得ません。したがって,「内々定」の取消は,労働契約の解約ではないことになり,仮に「内々定」の取消が違法な事由によるものであったとしても,労働契約成立への期待が裏切られたことに対する慰謝料請求が認められるにとどまります。なお,拘束関係の度合いによっては,「採用内定」と認められるケースもあり得ると思われます。

≪解雇予告と休業手当≫
 内定取消は,使用者側からする労働契約の解除,すなわち解雇と解されますので,一般的には,労働基準法第20条により,30日前の予告か,あるいは30日分以上の平均賃金を支払うかのいずれかが必要であるとされています。しかし,このような予告期間や予告手当は不要とする見解もあります。
 また,内定者が入社予定日以降に労務の提供を申し出たときには,使用者は,本来これを受領しなければならないわけですから,経営悪化など使用者側の事情で採用内定者の入社時期を繰り延べ自宅待機させる場合は,「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たり,使用者は,自宅待機の期間中,労働基準法第26条の規定によって,平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならないとするのが多数説です。

≪公共職業安定所への通知≫
 中学校,高等学校,大学,高等専門学校,盲・ろう・養護学校,専修学校,職業訓練校などを新たに卒業しようとする者を雇い入れようとする会社が,内定期間中に内定を取消す場合や内定期間を延長する場合には,あらかじめ公共職業安定所か学校長に,そのことを通知することとされています(職業安定法第54条,同法施行規則第35条)。この通知を受けた職業安定所は,場合によっては,雇入れ方法の改善について指導を行うことができます。
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 一応、法的にはこういうことになっていますので、先にあげたような言説は、少なくとも 法 治 国 家 で あ る 日本国においては通用しないものと思われます。また、内定を取り消された新卒者たちが昨今行っている諸要求は、まさに上記において広島県が推奨している対策を教科書どおりに行っており、「そこを履き違えて、100万円では足りないなんて。あきれた話だと思う。」というのは全く失当で、あきれるのはこっちだと言いたいところです。

 つづいて「その企業の将来をちゃんとみなかった本人の自己責任」について検討してみます。
 私としては、一般人にすぎない新卒者が、これほどまで深刻な事態である昨今の経済情勢を、就活の時期において予測できたとはとても思えません(というか、もし予測できればゴスプランで働けますよ!)ので、この言説は全く失当であると思います。また同様に、さすがの企業でもこれほどまで経済が悪化するとは採用内定を出した時点では予測できたか怪しいところなので、今回の就職内定取り消しも、あるいは仕方ないのかもしれませんが、しかし、ここ最近報じられている就職内定取り消しは、どれも結構な経営規模の企業が少なくない点、企業側の説明を鵜呑みにすることは出来ないと思いますし、たとえ本当に新卒者を雇い入れると経営が行き詰まるほど切羽詰っているとしても、先にご紹介したように、採用内定というのは雇用契約と解するのが法治国家としての日本国の決定である以上は、解雇相当の手続きを取らなくてはならないと考えています。ゆえに私としては、何処まで行ってもこの手の言説に賛同することは出来ないと明確に表明いたします。
 
 「新聞とか読めば経済の動静くらい分かったはずなのにそれを怠った自己責任」について。新卒の就職活動は、職安に行って2・3日でちゃっちゃとやるもんじゃないんですよっと。

 「このご時世でも雇い入れたくなるような能力を持たない本人の能力不足」について。
 端的に言うと、「このご時世でも雇い入れたくなるような能力」ってどんな能力ですか。昨今、内定を取り消されている人たちって大体は事務方のようですが、事務方にそんなすげえ能力なんているもんなのかと。
 この手の「本人の能力」は自己責任論者の切り札としてよく使われていますが、切り札も使い方を間違えるとアホ丸出しですね。

 以上、今回の分析から、以下の4項目が判明したといえると思います。

調査結果1.新卒者批判・企業擁護のツールとして「自己責任」を持ち出す点、所謂「自己責任論者」と相当近い、あるいは完全に一致する。

調査結果2.そもそもの法的位置づけを無視し、とにかく俺様基準で判断しようとする。「感情屋」と共通するところがある。

調査結果3. 相手の言うことは本当に事実なのかということを分析しようとせず、相手の言うことを鵜呑みにする。これは、12月14日づけ「結論が先、情報は後」においても類似例を取り上げましたが、先に作られている結論、つまり「補償無しの内定取り消しは問題ない行為」という、本人にとっては妥当だと思っている(ある意味)「信念」を補強するために、様々な情報に飛びついているためなのではないか。

調査結果4.実は世間知らず。

 さて、当ブログでは、主に刑事事件・刑事裁判に対する「世論」から「感情屋」の習性を、社会保障制度や労働者問題に対する「世論」から「自己責任論者」の習性を分析してまいりました。それらの分析から、私は度々、これら二者の共通性のようなものを直感的・感覚的に感じていましたが、今回このように、ちゃんとサンプルを元に分析すると、調査結果1と調査結果2に注目するに、「感情屋」も「自己責任論者」も、俺様基準で全てを判断しようとする点において、共通するところがあるのではないかと思います。
 今後も、「感情屋」と「自己責任論者」の言説を分析することを通して、これら二者の関係性について研究してまいるとともに、なぜ彼らはこのような、ある意味における「信念」を持っているのかについても分析してみたいと思います。


posted by s19171107 at 21:12| Comment(4) | TrackBack(0) | 時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>調査結果4.実は世間知らず。
結局、これが一番大きな理由ではないでしょうか。

>「このご時世でも雇い入れたくなるような能力を持たない本人の能力不足」
むしろ、一体どういう育ち方をすれば、ここまで思い上がることができるのか不思議だ…。
Posted by amanoiwato at 2008年12月16日 00:44
> なぜ彼らはこのような、ある意味における「信念」を持っているのか

自らのショボい「優越感」を満足させるための対象が欲しいから、という線が強いのではと思います。
ガス抜き、鬱憤晴らし、ムシャクシャしていたからやった、誰でも良かった・・・ま、そんな所でしょう。
実際彼らは、自分より強くて反撃をしてくる相手は絶対に叩きませんし。
Posted by ポール at 2008年12月17日 22:44
>「新聞とか読めば経済の動静くらい分かったはずなのにそれを怠った自己責任」

プロの経済評論家ですら、かのリーマンブラザーズの破綻を予測できなかったのに、一学生にどうやったらそのようなことが予測できるんですかね?
まして、日経をはじめとする経済新聞はその手のネガティブな材料は(アメリカ市場が株価の下落をはじめるまで)ほとんど取り上げていなかったんですが。

>ポールさん

>ガス抜き、鬱憤晴らし、ムシャクシャしていたからやった、誰でも良かった・・・

この理由でアキバで事件を起こした方もいたんですがね・・・。自分の歪さにどれだけ自覚的なんだか。
Posted by mash at 2008年12月18日 22:36
コメントありがとうございます。

>amanoiwatoさん
 全く同感です。
 遠くないうちに続報を書く事になると思いますので、そのときも「添削」をお願いいたします(^ω^)

>ポールさん
 そういう側面もあるでしょうね。あるいは、自分たちの「特権」が、自分たちよりも劣悪な環境にある人たちを救済する過程で削減されないように「自己責任」防衛線を張っているか。
 ・・・あれ?これって4〜5年前に流行った「既得権者」と同じ?

>mashさん
 なんでも相手の「自己責任」にして幕引きを図ろうとするから、こういう頓珍漢なこと言っちゃうんですよねww「お前こそ新聞読めよ」と言いたくなります。
Posted by s19171107@管理人 at 2009年03月08日 17:39
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