ネット上でも多くの方がこの事件について思い思いの主張が繰り広げられていて、言論の自由のある国って素晴らしいなと思っている次第です。
しかしながら、これらの主張の中には感情的になりすぎて、冷静な観点・法律的観点・刑事裁判を見る上で必須の観点が抜け落ちているものも少なく無いように思えます。当ブログでは特に刑事裁判を見る上での観点から、この事件に対する世論の中に看過できないものがあるとして、25日に『刑事裁判を見る上での視点』という記事を書きました。しかしこれは執筆理由こそ光市の事件ですが、実際に書いた後に読み返してみると、刑事事件一般が対象になっており、光市の事件という特定の事案と絡ませる上では言葉足らずになりそうな箇所がありました。
本日は、『刑事裁判を見る上での視点』の記事と光市の事件、そしてそれに対する世論を組み合わせて考えてみたいです。
まず最初に、この件に関する私の立場から話を始めます。
※追記:良く調べたら被告主張にもうなずけるところがあったので、削除線部分の見解は撤回します。
しかし、一方で被告・弁護側を批判する一部の方の主張にも『刑事裁判を見るとき持つべき視点』から疑念を持っています。具体的には検察側主張やマスコミなどで繰り返されている『事実』を既に絶対の真理としているきらいがあるからです。もっと言えば、被告・弁護側の1・2審での主張が事実で最高裁での主張が事実でないと判断できる根拠って何なんでしょう。繰り返しになりますが、彼らの主張の劇的変化に疑念を持つことはもっともだし、
※追記:先ほどと同じく、良く調べたら被告主張にもうなずけるところがあったので、削除線部分の見解は撤回します。
この記事を書く上でのベースとしている、当ブログ『刑事裁判を見る上での視点』の記事において、「"無罪の推定"を基本とする裁判所は検察の起訴事由が真か偽かを判断するところでしかなく、その上で検察側主張が事実と認められる場合にのみ刑罰を検討する」(主旨要約)と書きました。そして今、まさにそこを審理しているわけです。確かに殺害事実の真偽の審理まで戻るのは、最高裁が「もう一回、双方の話をきいてみようかな」と思うに至った主旨からは脱線し、最高裁としては「おお、そこから話を始めるとは想定外だな」というところなのかもしれませんが、『無罪の推定』と裁判所の法律的役割、そして何故3審制が採用されているのかを考えたときには、感情や弁護側の政治的な立場から類推される『真の目的』とやらには惑わされず、冷静にこの審理の行方を見守るのが、もうすぐ裁判員制度が始まり自分自身が裁く側に立つ番になる国に住む者としてあるべき姿ではないでしょうか。そして、7月8日の日記にも書きましたが、「こいつは死刑で当然」とか「弁護する価値もなかった」いう言葉を発することが出来るのは、裁判が終わって、事件の検察の主張が真実であると中立的立場(検察・弁護の双方から「中立」という意味)によって判定されてからだと私は思います。
とにかく、刑事裁判を見るときは、義憤などの感情を排して、検察主張が事実か否かだけを見るべきです。もちろん、犯罪被害者への同情は結構ですが法廷にそれを持ち込むと判断を誤りかねませんし、義憤の基準は人によってそれぞれですから、同じような事件なのに違う判例が出てしまいかねず、逆に司法の信頼性が落ちるものではないでしょうか。また、そもそも犯罪被害者の復讐を手助けするための司法ではありません。犯罪被害者救済は(根本的救済は無理ですが)別の手段が必要でしょう。
とまあ、法律なんて専門的に勉強したことがない私が、中学校社会科・高校公民科で勉強したことと最近読んだ本と論説誌から勢いで書いたものなので、専門家から見れば違うところもあるかもしれませんが、そういう時はコメント欄かメールでご指摘いただけるとありがたいです。
追記(J96'7/28 16:35)
刑法つながりで無期懲役について面白いサイトを見つけたからご紹介します。
http://www.geocities.jp/y_20_06/index.html
リンク先サイト、『無期懲役刑の現状』(http://www.geocities.jp/y_20_06/mukikei-genjyou.html)ページに興味深い記述。
無期懲役は世間で思われているほど甘いものではなく、90年代に再犯事件が相次いだこともあり、特に2000年以降においては、基本的に最低でも20年以上は経過しないと仮釈放(*1)されない運用がされており、「矯正統計年報」によれば、最近3年間に仮釈放を許された無期囚25人のうち、在所20年以内の者は1人もおらず、2000年以降の6年間でもごくわずかである。また、2005年の無期刑仮釈放者の平均在所年数は27年2ヶ月となっている(*2)。これは私も知らなかった。
なお、これはあくまで「仮釈放者」のデータであり、未仮釈放の長期在所者のデータに着目してみると、2000年8月の時点で、在所20年以上の無期囚が175人、在所30年以上の無期囚が42人、在所40年以上の無期囚が17人、在所50年以上の無期囚が2人存在していることが確認されており(*3)、2002年5月31日の衆議院法務委員会会議録によれば同年2月末時点の最長は「52年10ヶ月」、2番目が「52年0ヶ月」とのことである(*4)。
法制上は、10年経過後(少年のとき無期刑の判決を受けた者は7年経過後)から仮釈放が可能な規定(刑法28条、少年法58条1項1号)となっているため、「無期懲役といっても通常7年か10年で仮釈放される」などと誤解している者も散見されるが、実態との乖離が著しく、このような誤解の蔓延は「無期懲役刑の犯罪抑止効果」という観点から考えても、極めて好ましくなく、非常に問題である。
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