http://www.cnn.co.jp/world/CNN200712030010.html
南米ベネズエラで2日、大統領の再選制限撤廃などを盛り込んだ憲法改正法案に対する国民投票が実施された。即日開票の結果は3日未明に判明し、反対51%、賛成49%の小差で改憲法案は否決された。http://jp.reuters.com/article/domesticFunds/idJPnTK004404920071203
中央選管によると、全投票数は900万2439票で、棄権率は44.11%。有効投票数は888万3746票で、無効投票が11万8693票だった。
投票結果は、Aブロックが反対50.70%、賛成49.29%、Bブロックが反対51.05%、賛成48.94%と、小差だった。
改正法案は69条あり、大統領の再選制限の撤廃のほか、労働時間の短縮、中央銀行を大統領管轄下に置くといったものだった。事前の世論調査や出口調査などでは、賛成が優勢だった。
ベネズエラで2日行われた大統領の無期限再選を可能にする憲法改正案の是非を問う国民投票で、反対票が僅差で賛成票を上回り、権力強化を狙ったチャベス大統領の試みを砕く結果となった。この結果自体は如何でもいいんですが、11月30日のNHK(=自民党放送)BS「今日の世界」の、この件に関する特集が、チャベス贔屓どうこう以前に、客観報道として酷かった。
選挙管理当局者によると、反対票が約51%だったのに対し、賛成票は約49%だった。
チャベス大統領は敗北を認めながらも、「社会主義建設に向けた闘いを継続する」との考えを表明。改革は「とりあえず」失敗したが「依然として生きている」と述べ、再び憲法改正を目指す意欲を示した。
まず、「チャベス“独裁”の行方〜ベネズエラ憲法改正国民投票〜」という題名からしてアレなんだけど、内容はもっとすごい。
問題の改正案は、改定前憲法350条中、約5分の1にあたる69条なんですが、その『内容の骨子』というのが、以下3つしか紹介されませんでした。
1.大統領の再選制限撤廃
2.(公共性の高い)私有地の接収
3.中央銀行の政府管理化
しかしながら、改正案の骨子は更に、労働時間の短縮と住民自治組織(estructuras comunales)に基礎をおく人民権力の樹立という、NHK番組が取り上げたのと同じくらい重要なものが含まれています。ベネズエラを敵視する米国の民間メディア・CNNですら『労働時間の短縮』は取り上げたのに、別に対立も何もしていない日本の(一応)公共放送・NHKがスルーするのには、ちょっと驚きますね。
また、「大統領の再選制限撤廃=終身大統領=独裁」という微笑ましいほど単純すぎる論理を何度も何度も展開。番組最後のほうで、ラテンアメリカ研究者が出てきたのですが、「長期政権を狙うための布石とはいえるが、終身大統領は言いすぎ」と、この手の特集番組に出てくる文化人からとしては異例の指摘をされてしまっていました。
もし、この図式を持ち出したいのなら、大統領が非常事態を宣言すれば、治安当局は裁判所の令状なしに市民を拘束できると明記しており、野党のほか人権擁護団体も批判している。という部分を踏まえた上で、論理展開するまらまだしも、そこをすっ飛ばして「大統領の再選制限撤廃=終身大統領=独裁」と展開するのは素晴らしいほどの論の飛躍です。
ちなみに、大統領再選制限の無い国は、フランスなどがあります。
フランスは、2002年の憲法改定で任期5年に短縮されましたが、それ以前は7年で、任期としてはベネズエラと同じだったし、大統領は非常事態宣言を出せるし、国民議会の解散権すら持っており、「大統領大権」という点では似たようなもんです。
フランス非常事態宣言発令例(2005年11月)
(この記事自体は延長の為の議会議決ですが、もともとは政府命令であり、また内容的には大差ありません)
http://web.archive.org/web/20051125004646/http://www.chunichi.co.jp/00/kok/20051116/eve_____kok_____001.shtml
(文字化けの場合はエンコード調整が必要です)
フランス各地で続く暴動を沈静化するため、仏政府が発動した非常事態宣言の有効期限を三カ月延長する法案が十五日、国民議会(下院)で審議され、賛成三百四十六票、反対百四十八票、棄権四票の賛成多数で可決した。さて、「フランス大統領“独裁”の行方」とか聞いたことないんだけど。
十六日に上院で可決されれば二十一日から延長される見通し。夜間外出禁止令の発令や令状なしの家宅捜索など、長期間にわたって市民の自由や権利を制限することが可能になり、先進国では極めて異例の事態となる。
サルコジ内相は「暴動は沈静化しているが、まだ元に戻っていない。必要な時に限って予防手段として適用する」と説明。野党側からは、乱用を不安視する声や「(暴動の舞台の)都市郊外の住民の疎外感を助長し、国内を分断する」といった反対意見が相次いだ。
そのほかにも、特集中には何度か「市民の声」みたいなのを挟んでいるのですが、どれもこれも反政府派の人のインタビューばかり。もちろん、チャベス派のインタビューもありましたが、やはり反対派が主軸です。
それにしても、NHKって面白いですね。
昨年だったかは、「ラテンアメリカの挑戦」とか言って、散々チャベスをヨイショしたかと思えば、今度はただの独裁者呼ばわり。チャベスが「独裁者」なら、何で朴正煕は未だに「権威主義」扱いなんだろうね。朴の旦那に比べればチャベスなんて可愛いもんですよ。
まあ、「ラテンアメリカの挑戦」も、今回の放送にも一貫して言えることは、論の飛躍があるという点ですがね。こちとら受信料払っているんだから、もうちょい綿密な特集組めよ。これじゃフジテレビと同レベルだ。
しかし、この扱いの酷さはNHKの番組編集の無能さもさることながら、やっぱりベネズエラが「21世紀の社会主義」を標榜しているからでしょうか。確かにこの番組中でも、大地主から没収した土地の協同農場化や、油井の国有化を取り上げて「生産性低下」として紹介していましたし。
そりゃ協同農場や国有企業の「生産性」とやらが、資本主義的所有に劣るのは不思議は無いでしょうよ。そもそも経営の目的と着眼点が違うんだから。
ところで、「生産性低下」という言葉のイメージから、視聴者にソ連・東欧経済を連想させようと画策しているんだと思いますが、所謂「(ソ連型)社会主義体制」下における「生産性低下」ってのは、基本的に国家計画委員会主導の集権的命令経済に起因するもの(だからこそ、利潤追求の容認と市場原理の一部導入を柱とするリーベルマン理論を取り入れても、ハンガリーの新措置を以ってしても、東欧は駄目だった一方で、同じ「社会主義」でも、労働者自主管理を取っていたユーゴスラビアはまた別の道を歩んだ)であって、まだ集権的命令経済を始動させず、民間企業もあれば私有財産だってあるベネズエラは、ソ連でいう「生産性低下」とは別問題です。さしずめ、今のベネズエラの「生産性低下」は、なれない協同化作業に起因するものと利潤第一主義ではなく、実際に現場で働く労働者の生活を重視する経営に起因するものでしょう。
そして、さらに興味深いのは、「チャベス“独裁”の行方」といいながら、チャベス登場までのベネズエラがいかなる国であったのか、即ち新自由主義のせいで格差拡大が日本の比じゃなかったという点はどうしても報じようとせず、ただ「チャベスは貧困層向けに市場価格の半値程度の生活物資供給と無料食堂経営をしている」という、ただのポピュリストというイメージを作ろうとしているんですね。物事の「行方」を考える際には、必ず「その前」を見なきゃいけないって小学校で習わなかった?
かなり乱暴な解釈ではあるけど、チャベスは、貧困層は新自由主義のせいでどうにもならなくなったから、当面の解決策として、これらの政策を日本の生活保護と同じような感覚でやっている。それを、ただのポピュリストと暗に言う構成は、「お前ら本当に報道機関?」といいたくなります。
冷戦が終わり、「社会主義は終わった」と言われて随分たちましたが、「終わった」割には結構、この手の話題は取り上げられるもんですね。