http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080108-00000034-nnp-l40
福岡市東区で2006年8月に起きた飲酒運転3児死亡事故で、危険運転致死傷罪などに問われた元同市職員今林大(ふとし)被告(23)の判決公判が8日、福岡地裁であった。川口宰護(しょうご)裁判長は同罪の成立を否定、業務上過失致死傷と道交法違反(酒気帯び運転など)を適用し、業務上過失致死傷罪の併合罪の最高刑にあたる懲役7年6月を言い渡した。検察側は危険運転致死傷罪などの併合罪の最高刑である懲役25年を求刑していた。危険運転致死傷罪をめぐる司法判断が割れる中、飲酒運転追放の機運を高めるきっかけとなった事件は「故意犯」ではなく「過失犯」と認定され、刑が大幅に減軽された。私も私なりに、報道で分かっている範囲内の事実でこの事故について考え、記事を書きましたが、実際に出た判決の要旨とは似ても似つかないものとなりました。やはり、事実のごく一部を掻い摘んだにすぎないメディア報道で全てが分かるわけないということを改めて感じたことを、まず最初に正直に申し上げるとともに、分からなかったから仕方ないとはいえ、結果として、いい加減な予測記事を書いたことを自己批判します。
川口裁判長は「今林被告は酒に酔っていたが(事故前に)蛇行運転や居眠り運転はしておらず、正常な運転が困難な状態だったとは言えない」として危険運転致死傷罪の成立を否定。「漫然と進行方向の右側を脇見していたことが事故の原因」と結論づけた。弁護側が事故の一因とした、被害者側の居眠り運転については否定した。
また、業務上過失致死傷罪などの併合罪の最高刑を科した理由について「3児を愛し慈しんでいた両親の悲しみが癒やされる日はこないと言わざるを得ない。救護義務も尽くさず、ナンパ目的で酒気帯び運転した動機に酌量の余地はない」とし、「家族の幸せを一瞬にして破壊した本件のような交通事故が繰り返されないよう願わずにいられない」と付け加えた。
判決の言い渡し後、川口裁判長は今林被告に「これから一生をかけて償ってほしいと思います」と語りかけた。閉廷後、今林被告は収監された。
公判では検察側が「酩酊(めいてい)状態で車を運転した」として故意犯である危険運転致死傷罪の適用を主張し、弁護側は過失犯の業務上過失致死傷罪が妥当としていた。
この日は、冒頭に弁論を再開し、訴因を追加する手続きがあり再び結審、判決が言い渡された。
判決によると、今林被告は06年8月25日夜、同市東区の海の中道大橋を酒気帯びの状態で車を運転し、大上哲(あき)央(お)さん(34)=福岡市城南区=一家5人が乗る多目的レジャー車(RV)に追突。車ごと海中に転落させ大上さんの3人の子どもを死亡させた。
× ×
●3児死亡判決骨子
◇被告は事故当時、酩酊(めいてい)状態とはいえず、アルコールの影響で正常な運転が困難な状況にあったとは認められない
◇被害者の車を事故直前まで発見できなかったのは、脇見が原因
◇危険運転致死傷罪は成立せず業務上過失致死傷と酒気帯び運転の罪に当たる
◇結果の重大性、悪質性などから業務上過失致死傷罪の併合罪の最高刑に当たる懲役7年6月の実刑で臨むのが相当
さて、今回の記事は予定としては、「時事」カテゴリの「裁判関係」所属の記事として、この事故と判決を刑法的に見、また時間的余裕もあれば「世論」収集も入れる予定でした。その一環として、資料として本日も例によって、夜の「報道ステーション」(テレ朝系列)、「ニュース23」(TBS系列)の録画予約をしておきました。起床後、これらの番組をまとめて視聴したのですが、余りに落差が激しかったため、予定を急遽変更し、「メディア報道を見て思ったこととか」カテゴリとして、テレビメディアの事件・裁判の報道姿勢をメインにお送りします。
まず、「報道ステーション」。
判決の内容を、批判的な印象を持つような編集手法を以って伝えたうえで、「危険運転回避の主な要因を3つだけ取り上げてみました」という古館放送員のセリフと共に以下のような内容のフリップを放映しました。
・接触事故を起こしていないで、このフリップを使って、延々と「裁判所の判断が納得いかん」という主旨の発言を続け、また、被害者側弁護士を呼んで弁解させているです。もちろん、背景にはこんな感じ※に、亡くなった3児の大きい写真が飾られています。
・呼気1リットル中のエタノール濃度は0.25mg
・80km/h-100km/h、12秒のわき見は異常ではない
(※似たような感じの画像がこれしかなかったので、イメージ画としてみてください。笑わないでください。)
ちなみに、このフリップ自体が既にアレです。朝日新聞夕刊の社会面に判決のポイントとして、上記フリップの要素のほかに、「事故直前には衝突回避措置を講じた」とありますからね。たぶんこれ重要。
一応、「危険運転致死傷罪」の不備という論点についても話題になりましたが、本当に最後の最後にちょっとだけでした。
一方の「ニュース23」では、裁判長の「飲酒運転の発覚を恐れて逃亡を図るなど、誠に身勝手で、自己中心的。酌量の余地は微塵も無い。3人の子どもを失った遺族の悲しみや喪失感は筆舌に尽くしがたく、癒される日はくることは無い」という裁判官の発言を踏まえたうえで、「しかし判決は業務上過失致死でした」というような構成の事実報道につづき、交通事故に詳しい高山という弁護士による、判決を妥当であるとする意見もちゃんと放映したうえで、現行の「危険運転致死傷罪」はどうあるべきなのか考えなくてはならない、という内容の特集を中心に報じました。
高山氏の発言要旨を含む産経記事
http://sankei.jp.msn.com/affairs/disaster/080108/dst0801081427021-n1.htm
飲酒運転の元福岡市職員、今林大被告(23)の判決で危険運転致死傷罪の適用が見送られたことに、専門家らから「妥当な判決」との声が上がる一方、適用基準のあいまいさを指摘する意見も出た。さて、何でしょうね、この落差は。
交通事故裁判に詳しい高山俊吉弁護士は「刑法の構成要件に沿った妥当な判決だ。事件のポイントは、被告が本当に泥酔状態だったかどうかだが、事故後に検知した被告の呼気1リットル中のアルコールは酒酔いではなく、酒気帯び状態だ。科学的にみて、危険運転致死傷罪を適用するのは難しく、裁判所は法律をきちんと判断した」と評価した。
元最高検検事の土本武司白鴎大法科大学院長(刑事法)は「国民感情からすれば、酒を飲んで起こした事故で量刑が大きく違うと公平に反すると感じるだろう」という見解を示す一方で、「現在はアルコールの影響で正常な運転が困難な状態と、そうではない状態との境界が明確ではなく、検察官の立証範囲も明確ではない。司法が基準を早期につくることが望ましい」と指摘した。
東名高速道路の事故で幼い娘2人を亡くした千葉市の井上保孝さん、郁美さん夫妻は「あらゆることを被告に有利になるよう解釈し、情状理由を無理やり探して並べた判決だ。脇見運転がまかり通るならば、すべての飲酒運転は軽い刑罰になってしまう」と批判。
飲酒事故の根絶に取り組む特定非営利活動法人(NPO法人)「MADDジャパン」の飯田和代理事長も「飲酒運転を許してはいけないという認識が社会に広がり、厳罰化にもつながった事故だっただけに、決して世論に受け入れられる判決ではない。危険運転致死傷罪の適用条件はハードルが高すぎる」と疑問視した。だが「今回の判決を感情的に議論するのではなく、適用条件も含め、飲酒運転をなくすにはどうしたらいいのか、みんなで考えてゆくきっかけにしなければならない」とも。
今林被告の弁護人、春山九州男弁護士は「非常に重い判決で厳粛に受け止めている。主張が受け入れられていない点も多々あり、残念だ。控訴については、判決文を検討したうえで判断したい」と話した。
片や判決のポイントの一部を隠蔽し、背景には被害3児の大きな写真まで据え付けて、判決に対して終始ブーブー言うだけ。最後の最後に申し訳程度に「危険運転致死傷罪」の不備について触れる。片や「危険運転致死傷罪」の不備をメインに、判決を評価する言説も紹介してから、今後どうあるべきかを提起する。
まだ、私は判決文を見ていないので、この判決についての断定的評価は差し控えますが、「今、報道などで分かっている範囲内で良いので、この判決のどこに問題があるか言ってみろ」と問われれば、「そもそも、刑法208条の2で定められている「危険運転致死傷罪」という法律の条文自体に不備があるのではないか」と答えます。今回の判決に際して、今、報道されている範囲内で我々が第一に考えなくてはならないことは、「危険運転致死傷罪」の今後のあり方であり、判決についてブーブー言うことではないと思います。というか、文句あるならテレビでブーブー言っていないで検察に控訴するように求めればいいじゃない。
その点、今後を見据えた報道をした「ニュース23」は評価したいですし、判決のポイントの一部を隠蔽したフリップを放映し、また、遺影まで掲げたのにブーブー言うことに終始した「報道ステーション」は、どんなもんかと思います。
関連記事一覧
http://www.geocities.jp/s19171107/DIARY/BLOGINDEX/saiban.html
メディアが世論に与える影響は大きいですから、朝日のように偏った方向から見るのではなく、様々な方向から検証してもらいたいですね。
すみません、ざっと1/6付のエントリを読んだんですが、管理人さんが具体的にどのような「いい加減な予測記事」を書いたのか分からなかったのですが…。よろしければ、具体的に示していただけますか?
>「pop」さん
テレビ朝日の報道番組における事件報道は、全体的に、感情に訴える構成をすることが多く見受けられます。おそらく、今回の「報道ステーション」の隠蔽工作も、より、視聴者が感情的になるように仕向けるための印象操作でしょう。
まあ、この手の事件・事故の報道はどのメディアも似たようなもんですけどね。
>「mash」さん
6日の記事では以下の部分
【被害車両がそのまま海に転落したことは、被害車両運転手が居眠りをしていたため、逆に言えば被害車両運転手が居眠りをしていなかったら、海にまで転落することは無かった、ということになるんでしょうかね。】
裁判所は居眠り運転については失当であると言明しているので、結果的には、いい加減な憶測をしたことになります。改めて自己批判いたします。
そうですね。いまや犯罪事実を正確に報じるよりも、遺族の生前の映像をセンセーショナルに報じることが増えてますね。報道ステーションはワイドショーですから。はい。
夜の10時台にあんなアホな番組見たら駄目です。
被害者が居眠りの可能性はたしかに感じることがりますね。あの時間帯と自動車自身の破損状況からいってもし加害者車両が暴走していて、そのエネルギーがあったとした場合落ちるまえに自動車がボロボロになって衝突の衝撃だけですごい状態になります。
ただ飲酒運転への抑止力効果として、こうした報道は社会的意味を見出しているというのならば、本来、事故が起きる前にそもそも、テレビ番組内でのコメンテーターのかつての運転に関する発言とかのほうが問題だと思います。
こちらこそ、お久しぶりです。
>「天性の庇護者」さん
>夜の10時台にあんなアホな番組見たら駄目です。
全くです。
放送開始からかなりたちますが、まだ10回も見ていないです。
>テレビ番組内でのコメンテーターのかつての運転に関する発言とかのほうが問題だと思います。
ん、どういう意味でしょう。
あまりテレビは見ないもんですから、何を指しているのかがちょっと分かりません。
具体的な例で言えば、数年前、今は朝のワイドショーでコメンテーターしている人なんですけど、当時のバラエティ番組内で、ゴールド免許は運転してないだけじゃねぇか発言したり、
昔はマスコミも運転のマナー向上とかには無関心でした。
イジメ問題にしても、マスコミの取り上げかたには偏りがあります。そもそも、マスコミの番組制作に責任論がふっかぶりそうになると、いじめられた側にも問題があるとかの報道に。
ま、報道ステーションはバラエティ番組感覚で観てるから腹立たないんですけど、やっぱり誤解を生む表現はいけませんよね。真に受ける人もでてくるわけですから。
そういえば懲戒請求とかいってますけど、あれってバラエティ番組内での発言ですよね。それを大げさに扱うから、こういったバラエティと報道の区別がつかなくなるんですよね。
管理人さん、僕は思うに
マスコミの大きな問題は
知的バラエティ番組である『あるある』にもあったことですけど、ようするにバラエティ番組であるのにバラエティではなく情報番組ってやっていることが問題だとバラエティ番組である。委員会が言ってましたが、
たかじんの委員会も結局、あるある状態なんですよね。バラエティだから言いたい放題、だけど、バラエティって感覚で観てもらってない。そこが問題。
たしかに関西系の番組はバラエティ番組の枠で時事ネタをよくやりますが、司会者とうの発言の問題がありますね。
特に落語系の人は過激発言が売りにしているせいかみのもんた以上ですわ。
平気で死ねとか言いますしね(テレビで使っていいのか)
>「天性の庇護者」さん
>飲酒運転という以前に、運転マナーなんてもんをマスコミは啓発してないって言う意味です。
なるほど、確かにそうでしょうね。
>真に受ける人もでてくるわけですから。
ええ。
いくら「バラエティ番組」といえど、嘘や情報隠蔽は宜しくありません。
>ようするにバラエティ番組であるのにバラエティではなく情報番組ってやっていることが問題
>バラエティだから言いたい放題、だけど、バラエティって感覚で観てもらってない。そこが問題。
同感です。
しかし、メディアにこの是正を求めても、彼らも「売れなきゃ食えない」という、どうしようもない課題があります。かといって、全てのメディアを「公共メディア」として、「メディア維持税」なんて創設するわけにも行かない。
やはり、この問題の解決は個人意識における民主主義革命により、「情報で遊ぶ」ことをやめる、ないしは「この情報は事実関係を遊び心で加工したものだから、真に受けるべきではない」とメリハリをつけるか、どっちかでしょうね。