もう2ヶ月も前の出来事で、実は報告記事の原稿も出来ていたのに、なんか欲張って、別資料を織り合わせた「総合的な記事」とかいうのを書こうと思っていたんだっけ(←そこすら覚えていない)、3月の忙しさと「振られちゃった(´・ω・`)」で、すっかり忘れていました。申し訳ない。
ということで、2ヶ月も前のトークショーの報告記事、誰も期待していないような気もしますが、とりあえず報告記事の続きを書いておきます。
前回の記事は、最高裁の時点までの「前提となる事実」について、検察がまとめた「事件事実」について総括することから次回の記事ははじめる、と書きましたので、その部分の報告から始めます。
まず、光市裁判差し戻し審弁護団は、今回の裁判の「前提となる事実」、つまり最高裁が「ゆるぎなく認めることが出来る」とした検察側主張については、これは現実とは異なると一貫して主張してきていることを最初に確認しておきます。皆さん、この辺は宜しいですね?
で、その検察側主張というのが以下の文字サイズの小さい部分。
『法と民主主義』2007年11月号より引用。

(クリックで拡大)
本トークショーでも、『法と民主主義』2007年11月号の、被害者女性が殺害された部分までがまず読まれ、それに対して河井氏が、1.殺害行為について 2.強姦の計画性 の2点について反論しました。
その前にまず、弁護団の主張する殺害行為の順序を簡単にここで確認しておきます。以下については、河井氏が当トークショーで仰ったことではなく、複数の弁護団資料のなかから私の責任で再編集したものです。
1.被告が被害者女性に後ろから抱きつく
2.当然の如く被害者女性に抵抗される
3.被告が被害者女性をスリーパーホールドで気絶させる
4.崩れ落ちる被害者女性を見て、どうしようと被告が困る
5.意識を取り戻して被害者女性が反撃したらしい
6.びっくりして被告が被害者女性を押し倒して、さらに右手の逆手で口をふさごうとする
7.気がついたら右手が口ではなく首にかかっていて運悪く頚動脈を押さえていた。被害者女性死亡
それでは、殺害行為についての河井氏の反論について。
「自白」を基にした検察主張では、1.スプレー式洗浄剤を顔に吹きかけ、2.親指の指先が白くなるほど力を入れて押さえつけたが跳ね除けられたので、3.両手で全体重を掛けて頚部を圧迫した、とありますが、客観的証拠を見る限り、スプレー式洗浄剤については科捜研調査によると、その化学成分は被害者の顔面にも床にも、どこにも残っていませんでした。(差し戻し審においては弁護団は科捜研の「スプレー式洗浄剤が用いられた痕跡は無い」という検査結果を反論資料として法廷に提出しようとしたものの、検察官の反対により証拠採用されなかった。検察官は自分の味方である科捜研の検査結果なのに、証拠採用に抵抗した)
また検察主張は、下記写真のように「親指の指先が白くなるほど力を入れて押さえつけた」となっています。
(控訴審弁護団資料67ページの再現実験の写真より引用 クリックで拡大)
しかし客観的証拠すなわち遺体の状況によると、下図「B」の部分には表皮剥奪はあるが、非常に軽く、検察主張どおりならばこの程度では済まず、もう片方の手の痕跡に至っては全く無いとのこと。筋肉内部の所見についても、全体重を掛けて圧迫したなら筋肉内部の出血や喉仏の陥没、周辺の小さくて弱い骨が折れているはずなのに、客観的証拠すなわち遺体の状況には、そういう所見はないとのこと。

(控訴審弁護団資料41ページの被害者女性の遺体所見より引用 クリックで拡大)
蒼白帯についても、上図「C」を見る限り、両手で絞めたという証拠はなく、遺体の状況から考えるに、両手の順手ではなく、右手の逆手であると考えられるそうです。
この仮説を証明するため弁護団は再現実験をしました。
(控訴審弁護団資料65ページの再現実験の写真より引用 クリックで拡大)
まあお見事、41ページのイラストとピッタリ一致ですわ。なお、医学的見地から行くと、この絞め方ならば喉仏の陥没や骨折は起きないそうです。
ちなみに、蒼白帯が何なのか分からない人なんていないと思いますが念のために説明しておきますと、皆さん、ご自分の腕でも腿でも何でも良いですから手や紐で締めてみてください。白くなるけど、すぐに元に戻りますね。白人や黄色人種の肌の色ってのは、白人が怒ると本当に真っ赤になるのを見たことがある方ならご理解いただきやすいと思いますが、皮下血管に流れる血の色も含んでいるんですよ。ゆえに、手や紐で絞めることによって血流が阻害され、白っぽくなるんです。
生きている人間ならば心臓が動いていますので、離せば数秒以内に色は消える。しかし、絞殺された人は血流が停止するので戻りません。これが蒼白帯なんです。つまり蒼白帯というのは、殺害方法を示すものなんです。
なお、人が死ぬ瞬間なんて他人には分からないし、被害者は窒息死したわけですから、「そろそろ死にそうだから蒼白帯偽装工作のために、このときだけ手の絞め方を変えたんだ!」とか発狂しないでくださいね。手の絞め方を変えるために手を離したら、その瞬間に被害者は息継ぎをしますよ。
ところで、41ページのイラストの「A」の表皮剥奪って何でしょう。これについて、日本医科大学の大野氏の「スリーパーホールドで被害者女性を気絶させたときについた袖のボタンの跡ではないか」という仮説のもと、弁護団は検証を行いました。

(控訴審弁護団資料61ページの再現実験の写真より引用 赤丸は私がつけました クリックで拡大)
「A」の直径は1.3〜1.5センチ、そしてボタンの直径は1.4センチ。客観的証拠から推測するに、この跡はスリーパーホールドによって生じたものと考えるのが一番自然でしょう。
なお、これら客観的状況証拠に対して、検察は、「無くても不思議ではない」「痕跡がつかなかった可能性もある」という妙な言い逃れをしているそうです。そんなので人一人を死刑にできるって、日本って怖いねー
また、被告は当初、すなわち警察取調べ段階・家庭裁判所取調べ段階では、このような自白はしていません。検察の取調べを経て、前掲の『法と民主主義』07年11月号のような内容になったそうで、差し戻し審において主張している主張は、当初の主張とほぼ同一であり、「弁護団が吹き込んだものである」とか「死刑判決の可能性が出てきたから言い逃れをしている」といった世の言説は失当、弁護団が被告に入れ知恵しているということは100%無いとのことであり、客観的証拠もあわせて考えると、被告の当初の主張=差し戻し審での主張こそが、妥当なものであろう、と弁護団は認識しているそうです。
これと関連して、「検察の調書の作り方」というのも解説がありました。
河井氏によると、検察の調書は取り調べによって得た情報を一問一答ではなく、物語形式というか、一繋がりの文章としてまとめて被告人に読み聞かせて、良ければ被告人の指印で完成ということになるそうです。ただ、取調べ自体は一問一答なので、調書として一繋がりの文章にする過程で、取調官が取捨選択してゆくという方式らしいです。
取調べ過程の録音とかも義務ではなく、被疑者から取った自白についても調書に載せるか載せないかは取調官の裁量次第なんだから、こりゃ歴史上、あんだけ冤罪が起きるのも納得できるわ。
ちなみに、なぜ法曹資格はあるとはいえ、国家権力ではない弁護団が国家権力である検察側の科捜研の調査結果などを入手したかというと、今回の事件は一般刑事事件ではなく少年事件であり、全ての記録・証拠が家庭裁判所に送られるシステムであるがために、弁護団は家裁に請求して各種証拠を入手したそうです。
強姦の計画性について。
実はですね、予定では確かに強姦の計画性については話す手はずだったみたいなんですが、何か話の成り行きで、強姦の計画性についてすっ飛ばしてしまったようで、録音データを幾ら聞いても、この部分について詳しく言及していないんですよ。
実は私、3月15日の弁護団を招いたシンポジウムにも出席しておりまして、そちらでは強姦の計画性について明確に否定しておりました。3月15日のシンポジウムの報告記事についても、時間があれば書こうと思っているので、この点についてはそのときにでも。。。
強姦の計画性をすっ飛ばして、被害女児の所見について。
引き続き『法と民主主義』2007年11月号の、今度は被害女児殺害の場面の「自白」が読み上げられました。

(クリックで拡大)
これについて河井氏は、本人の身長は当時175センチ余りで、生後11ヶ月の赤ん坊を頭上から後頭部から思いっきりたたきつければ、脳に重大な損傷が生じなくてはならず、また、他の臓器も衝撃で重大且つ致命的な損傷が生じているはずで、それだけで死亡してしまうくらいなのに、司法解剖によると、実際は3箇所程度の軽微な皮下出血はあるものの脳内の損傷は全く無く、客観的証拠から考えると、被害女児のたたきつけは存在しないと考えるのが妥当であるとのことです。
この点を検察に突きつけてみたところ、検察は当初の「頭上から後頭部から思いっきりたたきつけた」というのを撤回し、「ひざをついて中腰になって落とした」と主張をかえてきたそうです。検察は頭上から後頭部から思いっきりたたきつけたことを以って、被告人の残虐性を指摘し、死刑を求めてきたわけですが、検察は自身が死刑相当としてきた根拠を自分から取り下げたわけです。
ちょっと長くなってきたので、続きは明日。。。今度こそ忘れないようにします。。。
なお、このあとは、テレビの報道姿勢についてと、「不謹慎な手紙」の真相、そして質疑応答です。
本トークショー関連の記事一覧
http://www.geocities.jp/s19171107/DIARY/BLOGINDEX/97.2.2.talkshow.html
司法関係関連記事一覧
http://www.geocities.jp/s19171107/DIARY/BLOGINDEX/saiban.html
これについての、週刊新潮の記事はご覧になりましたか?
『「屍姦再現写真」を前に大笑いした光市「母子殺害事件」弁護士たちの「鬼畜発言録」』
http://www.shinchosha.co.jp/shukanshincho/
「参加者」の言として、「弁護団の一方的な主張を、質疑応答もなく、ひたすら拝聴させ」ていた、「犯行で首を絞める状況を再現実験した写真を笑いながら、楽しそうに解説していた」「現場検証で、被告が人形を使って屍姦を再現しているところの写真を延々と写しだしていた」「そもそも強姦などではない、と荒唐無稽な主張を開陳」「『ただ2人の方がなくなっているというだけで、死刑を適用してよいというわけではない』と笑いながら言ってのけた」…等々、かなり悪意の有るバイアスが掛かりまくった記事なんですが、実際のところはどうだったのでしょうか?
>>amanoiwatoさん
拝読しました。弁護団がひたすら力説していた「検察主張と客観的証拠の決定的矛盾」について一切触れず、発言にしても前後の文脈を完全に無視しており、また、「死刑廃止論者が集まった」とありますが、第5回の記事で書いたように、河井氏は本村氏の死刑要求について「自然の感情としては良く分かる」と発言しており、その河井氏も件のシンポには出ていたので、「死刑廃止論者が集まった」というのは正確ではなく、虚偽誇張です。
このような記事を配信することは、逆説的に『週刊新潮』がどれだけ追い詰められているかを示すものであるな、と思います。
残念ながら、前日徹夜だったもんで、余り詳しくは内容を覚えていないのですが、幸いにして私も録音しておりましたので、これから検証記事を火曜日あたりまでに書こうと思っています。発売から1週間近くたってしまいますが、私の今の能力では、火曜日あたりに完成させるのが限界なので、どうかご容赦ください。
写真が暗くて見難いです。
特にBの親指の痕の位置と向きが・・・。
それと気になっていたんですけど、上告審の扼痕の図、一番下の蒼白帯の長さが約11cmで、その上の蒼白帯の長さが約6cmと約5cmも異なるのに、ほぼ同じ長さで描かれていたのは何故?
>無名Yさん
>なんか上告審の時の図面と違ってますよね。
特にBの親指の痕の位置と向きが・・・。
>上告審の扼痕の図、一番下の蒼白帯の長さが約11cmで、その上の蒼白帯の長さが約6cmと約5cmも異なる
失礼ですが、上記のデータはどちらでお知りになったのでしょうか?もし閲覧可能であれば、ソースの提示をお願いします。
てか、扼痕のあととかとなると、鑑定書を相当熟読してないと、分かりえないことだと思うんで。
現在、ネット上では見掛けませんね。削除されてます。
>>無名Yさん
お待たせいたしました。以下に返答いたしましたので、ご覧ください。
http://s19171107.seesaa.net/article/92942131.html
都合が悪くなったから削除したのか?www
>ん?さん
ご指摘受けて、このページにおけるリンク切れを修正しました。
現在、アップロードしているデータの整理や拡張子・ファイル名の修正、再アップロードを行っているのですが、その過程でリンク切れが起きてたのだと思われます。私の管理不足です。申し訳ありません。