当ブログは移転しました。詳細はこちらに掲載してありますので、ご参照ください。

2008年04月15日

裁判員制度に向けた「模擬評議」について

 今日づけ朝日新聞(東京)より。
97.4.15-1.JPG
(クリックで拡大)

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080415ddm041040019000c.html
始まる裁判員制度:同じ事件を5グループで裁いたら、量刑が3通り
 ◇裁判長「意外、もっと割れるかと」
 来年5月に裁判員制度が始まるのを前に、裁判官と裁判員役の五つのグループが、同じ事件の判決を言い渡す模擬裁判が14日、東京地裁で行われた。量刑にどの程度の差が生じるか検証する初の試み。パート女性が夫を包丁で刺して6カ月の重傷を負わせた架空の殺人未遂事件が対象で、判決は実刑1グループ、執行猶予4グループだった。

 被告人質問や証人尋問などは共通の法廷で行われ、検察側は懲役6年を求刑。弁護側は起訴事実を認め、夫の日常的な家庭内暴力(DV)などを挙げて情状酌量を求めた。この後、5グループは別々の会議室で約3時間、量刑を評議した。

 各グループは裁判官3人と裁判員役6人で構成。20〜70代の会社員、自営業、主婦らが裁判員役を務めた。評議では、過去の類似事件の量刑データを一覧にした裁判所作成の資料を参考にしながら、議論を進めた。その結果、4グループが懲役3年、執行猶予5年(うち一つが保護観察付き)、残る1グループが懲役2年6月の実刑だった。

 執行猶予としたグループは、主に夫のDVに注目。事件直前も激しく殴られており「動機や経緯に同情すべき点がある」などとした。保護観察を付けたグループは「更生のために(保護司などの)話し相手が必要」と判断した。1グループだけは「6カ月の重傷という重大な結果が生じており、実刑は免れない」とした。

 評議に参加した登石郁朗裁判長は「もっとばらばらになると思ったが意外」、角田正紀裁判長は「突き詰めた議論をすると、ある程度、結論が集約されるのでは」と話した。裁判員役の会社員、石井剛さん(38)は「(人を裁くのは)かなり不安でした。もっと大きな事件だと(判断に)二の足を踏むかもしれない」と感想を語った。

==============

 ◇グループごとの模擬裁判の結果◇
  <量刑>        <主な理由>

A 懲役3年・執行猶予5年 動機や経緯が同情できる

B 同           殺意の強くない突発的犯行

C 同           動機に酌量の余地がある

D 同保護観察付き     初犯で再犯の恐れが少ない

E 懲役2年6月(実刑)  結果の重大性を無視できない

 (※検察側の求刑は懲役6年)
 さて、私に言わせれば、全く無意味な試みをしたもんだと思う一方で、案外「庶民の感覚」って甘いのねと思い、同時にいつもの癖で光市事件と比較してしまいました。

 まず、なぜ無意味かについて。それは、これが模擬評議すなわち架空の裁判だからです。

 当ブログでも幾つか傷害事件や殺人事件について扱っておりますが、これらは多くの場合、メディアによる情報洪水といえるほどの過熱した決め付け報道がなされており、「テレビは絶対に見ない」という信念を持つ極少数の人間以外は、何らかの形でこの決め付け報道を目にし、影響を受けています。

 その点、この模擬評議すなわち架空裁判は、そういったものが一切なく、「無菌室」の人をつれてきたようなものです。こんなこと実際には殆どありえないので、実際の裁判員裁判を前提とした模擬評議としては無意味であると言わざるを得ません。

 また、案外「庶民の感覚」は甘いと思うのも事実です。裁判員の多くは、被害者である夫から加害者である妻へのDVを重視したといいますが、娘の高校進学をめぐる口論とDVの関連性ってあるんでしょうか。

 光市事件と比較してみると、まずDVの程度については「2年前から2週間に1回のゲンコツ」とのことですが、光市事件の被告少年が実父から受けてきたDVを基準にすれば、こんなの「嫌がらせ」のレベルにもなりません。また、本模擬評議においては、被告女性は包丁を持ち出しており、朝日記事には「殺意は争っていない」とあるので、殺意があったものと思われます。一方、実際の事件である光市事件は、控訴審段階での被告少年の主張においても、客観的状況証拠においても、殺意は認められない事案です。「嫌がらせ」のレベルにも満たないようなショボイDVを背景にした包丁による傷害事件という設定である本模擬評議が執行猶予刑ですむなら、光市事件の量刑はどうなるんでしょうか。いくら傷害致死といえども、10年未満の懲役ってことになるんじゃないんですかね。

 しかし、こういう「甘い」量刑を主張する裁判員すなわち「庶民」の皆様と、当ブログでもその言動を追跡採集している「感情屋」の皆様は、恐らく同一であります。その点を考えると、メディアによる決め付け報道というものの威力を改めて実感するものです。

司法関係関連記事一覧
http://www.geocities.jp/s19171107/DIARY/BLOGINDEX/saiban.html
posted by s19171107 at 21:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。